竹田の入院を聞き、おれは見舞いに行った。
予想外に大きな病院で、中でけっこう迷った。
「よお、思ったより元気そうじゃん」
病室を見つけたおれは、ベッドで本を読んでいた竹田に声をかけた。
「ああ。心配かけたな」竹田は相変わらず素っ気ない。
「いいってことよ。じゃ、これ食えそうだな」おれはケーキの箱を小卓に置いた。
「サンキュー。じつはさ、なんで入院したのかよくわから……」と竹田が口にしかけた時、
「失礼しまーす」と言いながら若い女の看護師が入ってきた。なかなかの美人だ。
「お友達? こんにちは」と柔和な笑顔を見せる。
「あ、ここのケーキ美味しいんだよねー。じゃあ竹田くん、ちょっとお熱計りますねー」
美人看護師は竹田の脇の下に素早く体温計を差し入れた。
何気なく竹田の顔を見ると……明らかに様子がおかしい。
きつく噛みしめた唇はわななき、顔は青ざめている。
急に具合でも悪くなったのか? しかし看護師は特に気にする様子もなく、
「よし、平熱ね。じゃあ竹田くん、あとでまた来ますから。お友達とごゆっくりー」
そう言って出て行った。
「おまえラッキーじゃん、あんな美人がいて。……おい大丈夫か、顔色悪いぞ?」
「……気づかなかったか?」竹田が震える声で聞いてきた。
「え?」
「あの女の動き方を見て、おかしいと感じなかったのか?」
「なんのことだよ。おいまさか、あの美人がじつは幽霊、
なんてオカ板並みにしょーもないオチじゃないよな?」
「その方がまだマシだ……」
「ん、どういう意味だよ」
「……あの女、一日に何回検温に来ると思う」
「そんなに多いのか」
「それだけじゃない。そのたびに言うんだ。
『迷いを断って、ふさわしい振る舞いをしてね』って。
なあ、“迷い”って、“ふさわしい振る舞い”って一体なんだ?
おれにはさっぱりわからない……」
竹田は若干ノイローゼ気味なのかもしれない。
あまり思いつめないよう励ましてから、おれは病室を辞した。
帰りもまた院内で迷った。それにしてもやたらと大きな病院だ。
まるで迷路みたいな。
やっと正面入口に着くと、自動扉の手前に何かが落ちているのが見えた。
おれが買ってきたケーキだ。ぐしゃぐしゃに潰されている。
そしてその横には、「あなたはふさわしくありません」と書かれた紙が置かれていた。