私は夜中に空腹のため目が覚めた。
しばらく布団の中で何か食べようか、それとも空腹を堪えて寝てしまおうか逡巡していたが、ふと近所からおすそ分けしてもらった餅が冷蔵庫にしまってあることを思い出し、起きて台所へ行った。
電気をつけようとしたが、もともと切れかけていた蛍光灯はとうとうきれてしまったらしく電気はつかない。
しかしまあ蛍光灯の明かりはなくとも、薄暗い小さなランプの灯りでも餅を切って焼くくらいなら問題なかろうと判断して、冷蔵庫から餅を取り出した。
包丁で餅を切り分けようとしたが、いつもならすうっと切れるはずの餅がその日に限って切れない。
『冷蔵庫にしまっておいたから冷えて固くなりすぎてしまったのかな』
と考えた私は手にさらに力を込めて切ろうとした。
しかし餅は頑なに包丁の刃を拒んだ。
苛ついた私は包丁の背に手をあててぐいぐいと押すようにしたが、餅には筋ひとつつかなかった。
1,2分格闘しただろうか、私はついに握りこぶしをつくりそれを包丁の背にどんどんと打ちつけ始めた。
しかし、それでも餅に包丁の刃がめり込むことはなかった。
ふと、背筋に寒気のようなものを感じた私は薄暗い明かりの中で手元を良く見た。
そしてすべてを悟った。