「ついに入手したぞ、本物のスナッフビデオ」
昼休み、無駄話で時間を潰していたおれと竹田のそばに来るなり、
津山は興奮気味にそうささやいた。
この二人は幼なじみらしいが、リアリストと夢想家というか、まったくタイプの違うコンビだ。
「はぁ?」竹田がすかさず眉をひそめる。
「これだからホラーオタクは。前に説明してやっただろ。
FBIの調査ですら、スナッフビデオの実在はついに確認されなかったんだって。
都市伝説にすぎないんだよあんなもん」
「いやいや、マジで本物なんだってこれが。なんなら今日の放課後、ウチ来る?
見ればすぐわかるから」
竹田はため息をつき、おれの顔を見た。
どこか地下室のような場所。粒子の粗い画像の中で、手足を鎖で縛られ
壁に張りつけられた金髪の白人女が、狂ったように泣き叫んでいる。
そしてその前には、目と口だけが開いた黒いマスクを被り、
唸るチェーンソーを抱えた巨体の男。
男は執拗にチェーンソーの刃を女の身体に近付けては離すことを繰り返しながら、
何か問いかけている。英語のようだ。
やがてチェーンソーが女の頭上に振りかざされ、そのまま頭皮から下を切り裂いていく。
飛び散る血しぶき。
津山の部屋で問題のビデオを見つづけるうちに、おれはすぐに気がついた。
「これ、カメラの移動とアップのタイミングが流暢すぎるよ。
あらかじめ動作を予測してないとこういう風には撮れない。
女もいかにも演技っぽいし。特撮はわりとよく出来てるけどね。残念ながら騙されたな」
そう言ってちらりと二人の顔を見た。
津山は無表情だ。
竹田は顔から血の気が引いている。目を見開き、唇を噛み締め、
食い入るようにしてじっと画面を見つめている。
「おい、どうした?」おれは声をかけた。竹田は答えない。震えている?
もう一度津山に目をやる。
相変わらずの無表情だが、どこか冷たく笑っているようにも見える。
いったいどうしたのだろう、二人とも。
チェーンソーの刃が女の胸元まで食い込んだところで、ビデオは終わった。
「おまえ、そろそろ帰れば」津山が突然おれに言った。
「え?」
「帰れよ、もう」
竹田はうつむいたまま動こうとしない。
部屋を出る間際、竹田がかすかに
「never forgive me…」
と英語をつぶやくのが聞こえた。
聞き覚えがあった。