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意味がわかると怖いコピペ732 「子守唄」

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わたしの同級生で幼なじみの竹田くんは、赤ちゃんや子供をあやすのがすごく上手い。
母親の腕の中で火のついたように泣き叫んでいた赤ん坊でさえ、
竹田くんが耳許で二言三言何か囁いただけで、パタリとおとなしくなってしまう。
ああいうのも一種の「才能」なのだろう。

けれどもある日、不幸なことが起きた。
竹田くんは親戚の赤ちゃんを預かって留守番をしていた。
ミルクをやり、おしめを替えてから、彼は得意の子守歌を歌って聴かせてあげた。
それを耳にしたらどんな赤ん坊だってコロリと寝ついてしまう、ちょっと魔法のような歌だ。
だけどその赤ちゃんは、それから二度と目を覚まさなかった。
乳幼児の原因不明の突然死。わりとあることだと聞く。決して竹田くんのせいではない。
親戚も我が子の死を深く悲しみこそすれ、
竹田くんのことを疑ったり責めたりなどしなかった。

でも竹田くんはそれからおかしくなった。
繰り返し自分を責め、「あんな歌さえ歌わなければ……」などと、
何度も独り言を漏らしては激しく後悔している様子だった。
べつに竹田くんの歌が死因となったわけでもないのに。
竹田くんはだんだんと普段から上の空になり、日ごと憔悴していくように見えた。

あれは中間試験の日、数学のテストの時間だった。
問題を解くのに熱中して解答用紙だけを見つめていたわたしは、
ふと違和感を覚えて顔を上げた。
黒板の手前の教卓の上で、試験監督の先生が両腕に顔を乗せ突っ伏している。
居眠り? まわりを見渡すと、右隣の小澤くんも、左隣の菅山さんも、
廊下側のいちばん前の席にいる津田くんも、みんな同じように眠り込んでいる。
わたし以外は全員……?
いや。気がついて、わたしは窓側の最後列の席を振り返った。
竹田くんがこちらを見ている。怯えたような、ほとんど泣きそうな顔をして。
「違うんだ……そんな、そんなつもりじゃなかったんだ」震える声でそう呟いた。

きっとそうなのだろう。ふと口ずさんでしまっただけなのだろう。
たぶん彼に悪意はなかった。
でも、だからこそ彼は、
決してあの歌をあんな場面であんな風に口にするべきではなかったのだ。
彼にそれを伝えられなかったことが、いまでもとても悲しい。


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