大学受験も近づいて 帰りの列車に乗る時刻はいつも9時を過ぎていた
地方の便なので いまの時期その時刻の列車に乗っている客は少ない
列車の前の方の席に いつも変わらず一人の女性が座っていた
彼女は黒い髪を肩ほどまで垂らしていつも窓の外を見ていて 僕はその横顔しか見たことが無かった
そのころ友人の一人に 彼女に話しかけるんだと意気込んで 彼女に近づいていった奴がいた
彼はすぐに困ったような表情で戻ってきた
彼女は彼の質問に一つも答えず 呪文のように何かを呟いているらしい
彼が列車を降りると 車内は僕と彼女の二人になっていた
彼女のことが気になった僕は そばによって話しかけてみようかと思った
彼女の正面までいったのだが いままで窓から斜め後ろの方を見ていた彼女は
僕がみると真後にかおを向けてしまって こちらからはいつもの横顔も見えなくなった
彼女は窓の外の方をまっすぐ向いていたので 僕も窓の外を見ようとした
そのとき 僕に聞こえたのは友人の言っていた彼女の呟きだった
「ワタシガミテイタノハ・・・」
僕は全てにきづいて目を見開いた