「さて、実験を始めましょう」
白衣を着た男が言った。その言葉をしおに数人の男たちが檻から解き放たれた。
男たちは、飢えた野獣のように地面を這いつくばり、バンバンと地面を
叩くものもいた。
コロッセウムのようにだだっ広い実験場には、男たちと様々な道具や食糧が
置かれている外(ほか)、何もなかった。
この実験の概要は単純明快。
この世に生まれ落ちてから、自分以外の人間に出会ったことのない人間を、
30年もの間密室で育て、30年目にして初めて、他の人間に会わせるというものだった。
研究室のチームリーダーは、この実験の考察をこのように語っている。
「人間は生まれながらにして、善悪や社交性を持っているのか?人類普遍の疑問に
して生涯解決されえない疑問の実験に、我々はついに成功した。その結果は考えるまでも
なく、我々の頭に描かれていたものと完全に一致していた。
被験者no.1は、最初の犠牲者となった。彼は最も効率的な方法で頭を殴られ、
つまり、こん棒で後頭部を打たれたのだが、他の被験者に体の部位を引きちぎられ
投げられた。 このことは、人間が生来、道具を使うことは心得ているが、
道具を正しく用いることは心得ていないことを示している。
また、他の人間を殺すことは、倫理的に正しくないこととは認識していないようだ。
また、no.5は一週間後にno.1の腐肉を喰らい、5日後に病死した。このことは、人間が
食べられるものと食べられないものを認識する能力が著しく低いことを示している」
研究室から報告を受けたものの一人が、こういった。
「人間に道具を与えよう」
こうして地球は平和になった。
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意味がわかると怖い話1415 「地には平和を」
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