「原因はわかっているんです」男は医師にそう告げた。
「若いころ酒浸りだったせいですよ」
「ほう、それでどんな症状が顕われたのでしょう?」
「このところ、周りのみんなが、ヒソヒソと
俺の悪口を囁いているのが聞こえるんです。妻と娘。
職場では同期の連中や、事務の女子社員も」
「それはいけませんね」
「ええ。幻聴だとわかっていても、イライラしますし、
時には殺してやろうか、と思うこともあります」
「その衝動が抑えられるのなら、治療の必要はありませんよ」
「でも、こんなのがずっと続くのには耐えられません。
なにかお薬を出してください!でないと俺は・・・・・・」
仕方なく、医師は薬を処方した。
数日後、男は病院に現れ、医師に向かって怒鳴った。
「かえって悪化したじゃないか!どうしてくれる?
今じゃ、全員が大きな声で俺の悪口を言ってるぞ!」
医師はため息をついて、首を横に振った。
「お薬が効いたようですね」