父と母が別居したのは、私が中学に入る頃。別居した父は、
隣町にある小さめのマンションを借りて一人暮らしを始めた。別居の理由はわからない。
父のマンションは中学から歩いて行ける距離だったので、
私は週に一度、たいていは金曜日に学校帰りの訪れて、そのまま父の部屋に一泊していた。
父のことは好きだったし、父が仕事から帰るまでの間、
自由に一人で過ごせるのも魅力的だったからだ。母も止めはしなかった。
その日は創立記念日で中学は休校だった。
特に予定もなかったから、少し悪戯心が働いて、私は朝から父のマンションへ向かった。
朝から父の所に行くのは初めてで、ちょっとドキドキした。
鍵が空いてて、無用心だなと思いつつ中に入った。何故かいつもと雰囲気が違う。
朝だからだろうか。寝室を覗くと差し込む日差しが眩しくて、よく見えない。
見知らぬ下着姿の女が父のベッドで眠っていた。
誰、この女の人。まさか、父の不倫相手?。信じられなかった。
別居の理由はこの女かもしれない。きっとそうだ。
パニックになった私は、近くにあった重い灰皿で女の頭を何度も殴った。
汚らわしくして耐えられなかった。女はすぐに動かなくなった。
我に返り、怖くなった私は逃げ出した。
それから父の元へは行かなくなった。父が犯人となり逮捕されるかもと思ったが、
不倫する父など逮捕されればいいとも思った。
怖くてニュースは見られなかった。怯え続けて数か月、母から父が寂しがっているから
一緒に会いに行こうと言われた。迷ったけれど、やっぱりあの女の事が気になり、
母と一緒に父の部屋に行った。
父は以前と変わらず、元気そうだった。
もしかしたら、あの日のことは夢だったのかもしれないと思った。
そろそろ帰るかという頃、覗きこんだ寝室に射し込む夕日を見て、
私は、とんでもない事をしてしまったことに気が付いた。