ある村に、のぞくと幸せになれるという穴のあるお堂があった。
ある日、百姓の息子がお堂に忍び込み、その穴をそっとのぞいてみた。
しかし、穴の奥は暗闇が広がるばかりで何もなかった。
その後、彼は貧乏な百姓が嫌で、村を飛び出した。
金持ちになって、侍になりたいという夢を捨て切れなかったのだ。
数年後、彼は山賊となり、道行く人を襲っては金品を強奪していた。
ある日、若い娘を手籠めにしたところ、娘は彼の体の下で息絶えてしまった。
罪の意識を感じた彼は、山賊から足を洗い頭を丸め、
坊さんとなって廃寺にこもり、毎日読経して暮らした。
そして月日は流れ、彼は坊さん姿で故郷の村に戻り、あのお堂に立ち寄った。
穴から中をのぞくと、そこには捨てられた赤子の姿が見えた。
彼は赤子を引き取ると、自分の廃寺へ戻り、赤子を大切に育てた。
ある日、心無いものが廃寺に火をつけた。
そして、坊さんも赤子も寺もみな燃えてしまった。
その後、村のお堂に、また若者が穴を見にやって来た。
そして穴をのぞくと、大きな悲鳴をあげ、
転げるようにお堂を出て、そのまま逃げていった。