「なあ、ミステリーサークルってあるだろ」
学校からの帰り道、おれは隣を歩いている竹田に何気ない調子で話しかけた。
「どうしようもなくいまさら感漂うネタだな」
竹田は鼻白んだ表情で答えた。頑固な反オカルト主義者らしい反応だ。
「で、それがどうしたって?」
「いや、じつはさ」
そこでおれはなるべくさりげなく聞こえるよう気をつけながら、
「おれ、発見したんだよ。ミステリーサークル」
「はぁ? おい、悪いけどつまんないぞ、その冗談」
竹田は露骨に顔をしかめた。
「本当だってば。そうだ、いまから見せてやるよ」
「ハッ、どうせ作り物だろ。どこにあるってんだよ」
おれは歩みを止めて竹田に顔を向けた。つられて竹田も立ち止まる。
「おれの胸の真ん中さ」
あらかじめ考え練習もしておいたセリフを、思いきって竹田に投げかけた。
「……なんだって?」
「竹田、おまえに……おまえだけに見てほしいんだ」
おれは真剣な眼差しで竹田を
見つめた。少し声が震えてしまったかもしれない。
「…………」
「気づいていたんだろ、竹田」
竹田は押し黙ったまま呆然とおれの顔を見返している。頬に赤みが差してきている。
「……付き合いきれねえよ、そんな嘘には」
やがて竹田はかすれた声でつぶやくと顔を背け、おれを置いて足早に立ち去った。
一人残されたおれは石像のように立ち尽くす。
予想できたこととはいえ、思っていた以上に傷ついている自分に驚く。
気がつくと視界が涙でぼやけていた。
けれど竹田は間違っている。おれは嘘などついていない。
明日になれば竹田は、胸にぽっかりと真円の空いたおれの姿を見ることになるだろう。
そしてそのサークルが抉られたのは誰のせいなのか、否応なしに理解するのだ。