家庭を持って2年。
ようやく僕にも人並みの幸せが訪れた頃なのだろう。
変わらない朝、母胎を押してまで妻はネクタイを直してくれた。
画家の夢は諦めた、けれども二人の夢は始まったばかりだ。
出勤途中、近所の空き地で奇妙な青年を見た
メガネを掛け青白く虚ろな表情で木の上を見つめている
不思議とあまり怖くは感じない、むしろどこか懐かしい雰囲気だ。
声をかけようと思ったがあいにく今は時間がない、遅刻してしまう。
祖母から連絡があって僕は急いで会社を出た
待望の第一子、男の子だ。
きっと彼女に似て頭脳明晰な子に育つに違いない。
気持ちは焦りながらもタクシーは病院に着いた
祖母の話では遠い親戚も駆けつけてくれたという、僕が最後なのだろう。
出来る限り速足で階段を上り、廊下を駆けついに病室の前に立った。
「ふぅっ・・・。」
高鳴る鼓動を抑え、僕はゆっくりと扉を開いた。