ああ、暑い。
前も後ろも右隣も、動かない車で景色が塞がれている。
もう夕方だろうか、燃えるような夕陽が差し込んでくる。
車内に閉じ込められてから、1時間は経つだろう。
ラジオを聴いていると、どうもこの辺りで車数台を巻き込む大きな事故があったらしい。
死人も出たみたいだが、その辺りの情報は隣りの車の男がやけに詳しかった。
携帯しているペットボトルから麦茶を飲む俺に、同じく隣で立ち往生している男が話しかけてきた。
・・・なあ、ひどい汗だな。
今日は暑いのに、ツイてねぇな。
黙って暑さに耐えているよりは、誰かと話しているほうが気も紛れるだろう。
俺が事故の話題を振ると、その様子をまるで見ていたように事細かに語ってきた。
・・・首がさ、取れかけてたンだってよ。
こうボキっと。
そうして天を仰ぐようにがくんと頭を倒してみせた。
どうやら玉突き事故を起こした車の持ち主のことらしい。
俺はまた、麦茶を飲んだ。
汗が噴きでる。暑さのせいか?
適当に相槌を返しながら、俺は体にまとわりつくTシャツを引っ張っていた。
ふいに男のふざけた表情が、喜びの顔に変わる。
・・・じゃ、お先に。
隣の車線がゆるゆると動き出し、坂道を登り始めた。
ああ、ここは坂道だったろうか。
俺の車線はまだか?
いくら飲んでも飲み足りない。
妙に汗がベタついて嫌だ。
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意味がわかると怖い話1046 「渋滞」
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