目の前に人が倒れていた。
すぐに救急車を呼ぼうとしてポケットの中の携帯を取り出した。
充電してなかったことを思い出して慌てて開いてみると、
まだギリギリ電池は残っていた。
迅速に通報出来たおかげで彼は助かった。
五年程経ってまた似たような状況になったのだが、
その時も俺が問題なく行動出来たおかげで命は救われた。
また数年経って同じ状況が訪れたわけだが、
相変わらず充電するのを忘れた携帯を取り出そうとすると、
目の前の男がこんなことを言った。
「救急車を呼ばないでくれ。頼む。」
何を言っているのか。そんなことをしたら死んでしまうではないか。
怒った俺は言い返した。
「生きるんだ。お前は生きなくちゃならない。死んではだめだ。」
涙する彼を横目に、俺は救急車を呼び、また命が救われた。
あれから十五年。
久しぶりに訪れたこの町は随分と様子が変わったが、人はあまり変わらないようだ。
俺は出掛ける準備を終え、
前の晩から充電器に挿したままにしておいた携帯を握りしめ、
夕暮れの町に歩いて行った。
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意味がわかると怖い話990 「充電するのを忘れた携帯」
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